ベトナム労働市場の動向

ベトナムで経済発展の成長の原動力となっているのは、労働集約型セクターです。けれども、世界がインダストリー4.0に向かうにつれ、ベトナム政府も、生産性やスキル、競争力維持のための労働者の質の向上を目指し、経済の主要セクターすべてにおいて大幅な改革を行う必要に迫られています。

労働生産性

2008年以降、ベトナムの労働生産性は22.5パーセント増加しています。2017年の物価での労働生産性は9,320万ベトナムドン(4,159米ドル:約46万円)となっており、2016年と比較して1,000万ベトナムドンの増加が見られます。

労働生産性と経済成長とは無関係

ベトナムの労働生産性の増加は経済成長とは関係はありません。2010年の物価での年間平均労働生産性成長率は、2011~2017年で4.7パーセントであったのに対し、投資資本の成長は9パーセントと高くなっています。また、同時期の経済規模は1,050億米ドルから2,200億米ドルに伸びています。

このような矛盾から、経済規模は労働生産性だけでなく非労働力要因によっても異なることが分かります。

賃金 vs 労働生産性

経済成長と労働生産性のギャップのせいで、労働生産性の成長よりも早く賃金が上昇しています。2004年から2015年で、労働生産性はわずか4.96パーセントしか伸びていないにもかかわらず、平均賃金は6.67パーセント上昇しました。

生産性に関連した賃金の伸びは、民間企業はほぼ同じ水準を維持した一方、海外直接投資企業で最も多く見られています。国営企業の賃金上昇率は、生産性の成長を下回っています。

鉱山業や、郵政事業、運送業などの労働生産性の伸びが遅い産業では、生産性よりも賃金の上昇が早い状況にあります。公益事業部門では、賃金の伸びはさらに遅く、製造業、貿易業、建設業ではほぼ同じ水準を維持しています。

生産性の成長をしのぐ賃金効果

賃金の上昇が生産性を超える状況が続いた場合、企業の利益は減少し、雇用の削減か、競争力の高い国への事業の移動を余儀なくされるでしょう。ベトナムの競争力を維持を望むなら、賃金と労働生産性の上昇率が肩を並べる必要があります。

これまでも最低賃金の上昇は、特に海外直接投資企業や民間企業での平均賃金、利益の減少、雇用の低下をもたらしてきました。労働集約型セクターはオートメーション化に移行するのが通常ですが、逆に資本集約型セクターでは、機械投資の削減を行います。

産業セクターについて

2008年から2016年の間で労働生産性の高かったセクターは、鉱山業、電力・ガス生産供給事業・金融、保険、技術活動事業、不動産、水道供給事業です。

同時期の加工・製造業は労働生産性が低く、農業、林業、漁業セクターの生産性は最低となっています。

平均給料

ベトナム統計局によれば、2017年の平均月給は660万ベトナムドン(290米ドル:約3万2千円)で、2016年から9.3パーセント上昇しています。これは、2017年の地域別最低賃金の上昇率、7.3パーセントを上回る値です。

海外直接投資企業と民間企業の2017年の平均月収は、それぞれ2016年から13.5パーセント上昇して670万ベトナムドン(293米ドル:約3万2,500円)、3.3パーセント上昇して560万ベトナムドン(246米ドル:約2万7千円)となっています。

最高平均月給とその都市

人材紹介企業 キャリアリンクベトナム調べのベトナム最高平均月給は以下の通りです。

都市/省名     平均月給(米ドル)

ホーチミンシティ 456

ダナン 452

ビンズオン 444

バクニン 421

ハノイ 407

労働供給

ベトナムの就業労働者の数は、2016年の5,303万人から2017年の5,370万人に増加しています。農業、林業、漁業では2,230万人から2,160万人に減少し、産業、建設業では1,320万人から1,380万人への増加が認められます。サービス業もまた1,780万人から1,830万人に増えています。

15歳から39歳までの労働人口は現在、ベトナム全体の半数近くを占めています。2017年の労働年齢に該当する熟練労働者の割合は、21.5パーセントと推定され、2016年より20.6パーセント高くなっています。

就業労働者のおよそ32パーセントは都市部を、残りは農村地域を占めています。また、男性従業者はベトナムの労働人口の半数をやや上回っています。

2017年の労働年齢に該当する失業率は2.24パーセント、都市部では3.18パーセント、農村地域では1.78パーセントです。また、労働年齢層の不完全雇用者の割合は1.63パーセントで、都市部では0.85パーセント、農村地域では2.07パーセントとなっています。

労働人口分布

政府が行った2017年第4四半期の労働調査では、労働人口の67.8パーセントが農村地域に暮らしているとされています。その割合は紅河デルタ・中北部が最大の21.7パーセント、南中部

が21.6パーセントを占めています。続いてメコンデルタ地帯が18.9パーセント、南東部が17.1パーセントとなっています。

平均国内労働参加率は76.9パーセントです。北中部・山岳地帯では84.9パーセントと最大で、続いて中部高原地帯の83.3パーセントとなっています。参加率が最低となった地域は紅河デルタと南中部です。

セクター別では、農業・林業・漁業の労働人口の大半が、北部高原・山岳地帯、中部高原、メコンデルタ地帯に分布しています。

産業・建設セクターに関しては、その大半が南東部(ホーチミン市)、紅河デルタ(ハノイ)に分布しています。また、サービス業セクターでは、ホーチミン市、ハノイ、メコンデルタ地帯がその大半を占めています。

課題

ベトナムの労働市場が抱えている主な課題は、熟練労働者の不足、インダストリー4.0の影響、まもなく施行となる自由貿易協定のための労働改革の必要性です。

熟練労働者の不足

海外直接投資企業は、依然ベトナムでの熟練労働者の獲得に苦戦しています。各国の人材の獲得・開発・維持能力を評価した、「人材競争力に関する国際調査(GTCI)2018」では、ベトナムは119か国中87位にランクされています。技術インフラや、研究開発費、職業訓練・技術スキルの不足もまた主な課題に含まれるでしょう。

熟練労働者不足は、労働集約型産業からハイテク商品を中心とする経済への移行を鈍らせることとなり、ベトナムの競争力低下を引き起こすこととなるでしょう。現在、国内の海外直接投資企業のおよそ40パーセントが熟練従業者の獲得に苦労しています。

労働市場の需要に応えるため、政府は職業・技術訓練を増やそうと一歩踏み出しました。2018年3月、法令第49/2018/ND-CPを導入し、職業訓練教育の認証評価システムを整えることとしました。2018年2月の時点で、ベトナム全土の職業訓練センターは1,900以上あり、そのうち395施設が高等専門学校、545が職業訓練学校です。それらの教育訓練施設では、観光業、美容サービス、IT、工事建設、ファッション、縫製繊維、調剤、精密機械、ホテル運営などの訓練プログラムが開設されています。

インダストリー4.0の影響

世界の企業はインダストリー4.0へ向けて急速に動いています。ベトナム政府が人的資本の強化に踏み出さなければ、経済に大きな影響を及ぼすことになるでしょう。国際労働機関(ILO)によると、ベトナムのアパレル・製靴産業で働く労働者の86パーセントが、テクノロジー化により仕事を失う可能性があるとされています。失業者の大半は、市場に参入したばかりの若年層労働者に見受けられます。

そのため政府は、現在の産業需要により見合った教育改革と工業訓練を導入しなければなりません。世界経済フォーラム(WEF)の「製造業の未来のための準備に関する報告2018」では、現在のベトナムはインダストリー4.0への準備が整っていない国の中に位置付けられており、100か国中、テクノロジー・イノベーション部門では90位、人的資本部門では70位となっています。

海外直接投資のコミットメント

環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)とEU-ベトナム自由貿易協定(EVNFTA)が発行されれば、労働コストの上昇が予測されます。これらの協定はベトナムの輸出業者の市場アクセス向上の面で有益ですが、政府は労働改革、技術スキルの向上、企業統治に力を注ぎ、協定のメリットを確実に実現させることが求められています。

近々発行となる2つの協定のどちらでも、労働者の権利は重要条項に含まれており、協定国は1998年に採択されたILO宣言で述べられているように、その権利を法律・制度・実務に採用し、維持しなければなりません。ベトナムは、制度的、法的改革についてはその条件を満たすために動き出していますが、実施・実行という点では一層の努力が必要です。